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まなざしの川をわたる

まなざしの川をわたる

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著者/齋藤陽道
写真/もりやままなみ

出版社/株式会社せかいはことば
サイズ/142ページ 17.5*11cm
発行(年月)/2025年12月

 

眼の喜び たずさえて

最近、家の掃除をしていたら昔に書いていた日記をみつけました。5歳のころ、日本語を習得するということで毎日宿題として書いていたものです。日記には、発音訓練の先生による赤字が書かれているのですが、いやあ、ひどい。ひどい。きれいな言葉を少しでも身につけるべく厳しい訓練が必要である、という、ど根性論が当たり前の昭和だったとしても、それでも、どれも5歳児にむけるべきものではないものでした。子どもを迎えた今、読むとあらためてそのいびつさがわかります。「手話を覚えると犬並みになるからやめなさい」と母に言った先生でした。いやはやなんとも。

日記に書かれたこの赤字が、ぼくにとってずっと呪いでした。聞こえるまともな人間にならなきゃ、と、ずっと焦ってもがいていました。程度の差や形は違えど、こういう偏見と差別に満ちた呪いは現在もあります。

こうした呪いから放たれて、ろうとしての生き方を絶対肯定するような本をぼくはずっと必要としていました。まずぼくが作ろうと思い、写真作品、エッセイ、そして、今回は、詩集に挑みました。

ぼくと同じく、眼で見る喜びをたずさえて写真を撮る、妻であり、最高のライバルでもある、写真家もりやままなみとの初めての写真による共同作品でもあります。

*特典:もりやままなみ描き下ろしエッセイ付き。1000部限定刊行


「明け方」

眠っているかのような
あなたに 手で話しかけました
ひとたび ことばをそそげば
心の奥で広がる無辺から 
あなたの記憶が 
あざやかに湧きいづります

あなたがいた場所も
目尻の皺も
手がつむいだことばの軌跡も
ことごとく
記憶が溢れて こぼれて 
やみません

静かに にぎやかな赤い血
私の記憶には 
私の全感覚を通して
あなたが宿っています

私の手も いつか 
語れなくなるでしょう
その日まで
できるかぎりの光を 
この手に通わせて
できるかぎりの風景を 
目の奥にしまって
できるかぎりの人と 
ことばを交わして
あらゆることばの気配が
皺のすきまに宿るなら
それだけで 
もう


この詩集で成したいことは、単に「ろう者の物語」を描くことではなく、「目の喜びを糧として生きる者が、世界をどう感じ、どう共有しうるか」という問いに向き合うことだった。(「あとがき」より)

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