西南役伝説
西南役伝説
著者/石牟礼道子
出版社/講談社
サイズ/320ページ 15*10.5cm
発行(年月)/2018年3月
けさのめしは、旨かった。
御一新から十年、下野した西郷隆盛のもとに集結した士族たちが決起した「西南戦争」。その戦場となった南九州の地で、名もなき人々によって語り継がれてきた声に耳を澄ます。当時の噂や風説を知る古老たちの生の声からは、支配権力の伝える歴史からは見えてこない、庶民のしたたかな眼差しと文化を浮き彫りにする。百年というスケールでこの国の「根」の在処を探った、名作『苦海浄土』につらなる石牟礼文学の原点。
「ほほう。えらいな世の中になるもんぞ、お月さま迄なあ、お月さまも、世界のうちじゃろうて---。」
「人間の値打ちが、違うて来たごとあり申す。あたいどもが想うとった通りに。
薩摩の殿さまの世と、天皇さまの世の中では、何が違うて来たかとなあ。」
「あらあらと思う間じゃったが、九十年は夢より早か。どれだけ開くる世の中かわからん。」
「目に一丁字もない人間が、この世をどう見ているか、それが大切である。権威も肩書も地位もないただの人間がこの世の仕組みの最初のひとりであるから、と思えた。」
「人びとは何を考えていたのであろうか。不知火海を渡ってここまで来てしまった。出て来た故郷はどちらの方角か。戻れない旅に一家して出る思案を定めかねて、とつおいつしていたことも遠く感ぜられる。井戸のぐるりに湧いたようなちいさな田んぼや、猫のひたいぐらいの段々畠の一隅ほどでも、御先祖さまの手形と思って大切にしていたものを位牌田と決めて、御先祖さまがわりの形代に、親類にあずける相談もしに行かねばならなかったろう。」
<目次より>
序 章 深川
第一章 曳き舟
第二章 有郷きく女
第三章 男さんのこと
第四章 天草島私記
第五章 いくさ道(上)
第六章 いくさ道(下)
拾遺一 六道御前
拾遺二 草文
拾遺三 太陽の韻
あとがき(初版)
さらにあとがき(選書版あとがき)
あとがき(『石牟礼道子全集・不知火』第5巻)
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